契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
14.トラウマを乗り越えて
「では、まず私が見本を見せますね」
道重堂本店の厨房で、私は彰さんと倉田さんが見守る中、ボウルに入った粒あんをスプーンですくって口に入れた。
「うん。おいしいです。甘いのに一切くどさがなくて、澄み切ったお味。ボウルに入ってる量ぜんぶ食べちゃいたくなります」
そして、作業台を挟んで向かい合う彰さんに向け、その美味しさをこれでもかとアピールする。
餡子だけをこんな風に食べるって、私にとっては贅沢以外の何物でもないのだけれど……。
「……結奈が、そう言うなら」
ふうっと息をつき、覚悟を決めた様子で彰さんも餡子をひとさじすくう。
その手は微かに震え、瞳には不安な色が浮かんでいる。
「頑張って、彰さん」
背中を押すように声をかけるけれど、彰さんはスプーンをじっと見つめたまま固まるばかり。
やがてカチャン、とボウルの中にスプーンを戻して頭を抱えた。
「ダメだ……どうしても」
「彰さん……」