契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
彼がこんなふうに餡子を食べられなくなった理由を、私は先ほど平川さんの口から聞かされた。
幼い頃の彼らは一緒に〝和菓子職人になろう〟と約束していたのに、彰さんが道重堂の社長夫妻の養子になると決まると、その夢が途絶えただけでなく、平川さんは彰さんに歪んだ嫉妬を抱くようになった。
そして、彰さんが施設を出る当日……平川さんは〝裏切り者〟という重い言葉を彰さんにぶつけ、泥大福を食べさせたのだと。
その話を聞いて居てもたってもいられなくなった私はすぐに自宅に帰ったけれど、彰さんの姿はなかった。
それで会社に電話してみたところ、前に一度だけ話したことのある秘書の冬樹さんが『社長なら銀座本店に寄ってから帰られると仰ってました』と教えてくれて、急いでまた家を飛び出してきたというわけだ。
「私、さっきまで平川さんと一緒にいたんです。もちろん、変な理由なんかありません、仕事のことでたまたま」
彰さんが心配するより先に、平川さんと一緒にいた理由を説明して、本題に入る。