契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「……美味い」
聞こえるか聞こえないかの小さなつぶやきだったけれど、確かに耳に届いたその言葉に、私は感極まって涙目になる。
「彰さん……食べられたんですね。しかも、ちゃんと〝美味しい〟って感じながら」
「ああ。最初は何が起きたかわからなかったが……徐々に舌の上に餡子の存在を感じた。結奈の体温で適度に食べやすく溶けていて、キスの味も加わっているからか味は濃厚で……」
それから彰さんは自らスプーンを手に取り、今度は自分の意思でためらいなく餡子を口に運んだ。
そして再度確かめた味に、目元をやわらかく緩めてしみじみ言った。
「ああ……懐かしい。子どものころ食べたきりだったが、餡子ってこんなに美味いものだったか」
餡子の甘さは、道重堂の和菓子は、人を幸福にする。
彰さんは完全に、そのことを思い出してくれたみたいだ。
「彰さん……!」
見事にトラウマを克服した彼に歓喜し、すぐそばに駆け寄ってその体に抱きついた。
「よかった……。本当に、よかったです……!」
ぐす、と鼻をすすりながら全力で喜びを伝えると、彰さんも私の背中にぎゅっと腕を回し、抱きしめ返してくれる。