契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
自分の格好を見下ろし悶々としていると、耳元の彰さんの声が少し不機嫌になる。
『……結奈。昨日も言ったが、母にはあまり時間がないんだ。服なんかどうでもいい。仕事終わるの何時だ? 会社まで迎えに行く』
えっ! 迎え!? ……でもそっか。彰さんのお母さんは余命が迫っているんだった。服装なんか理由にして断ってる場合じゃないのか……。
迷ったけれど、婚約者のフリをすると引き受けたのは自分だ。途中で投げ出すわけにはいかない。
「わかりました。仕事は、六時過ぎには終わるかと」
『六時過ぎだな。名刺に書いてある住所でいいんだろ?』
「はいっ。では、またのちほど……!」
通話を終えると、スマホを胸に抱いて大きく息をついた。
ああ、緊張した……。彰さんの声って、電話で聞くとまた一段とエロ……もとい、色っぽいから。
そんなことより、今夜、彼のご両親と会うことになってしまった。
私、彰さんのことなんか何も知らないのに、ぼろを出さないようにできるかな?