契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
そのときちょうど信号が赤になり、車が停車するのと同時に、彰さんが私のほうを向いて口を開いた。
「正直言って、お前に恋愛感情はない。が、道重堂のことに詳しく、職人を敬愛する心もあり、和菓子の美味しさを見極める鋭い味覚を持っているお前こそ、俺の嫁に相応しい。そう思ったから行動に移したまでだ」
最初の一言で、がくっと気が抜けた。まぁそりゃそうだよね。恋愛感情があるわけないでしょうよ。
でも、愛の告白とは程遠い口説き文句を聞いているうちに、不思議と私の心は動かされてきた。
彰さんは道重堂の社長で、色々な重圧や責任を背負って生きてかなきゃならない人だ。そんな人の結婚はたくさんのしがらみがあるだろうし、恋愛感情だけで突っ走るものでもないのだろう。
私ももうちょっと若ければ、好きな人を見つけてゆっくり恋愛を謳歌して、それからでも結婚できたけれど……。
今は前回の失恋の傷を引きずっている上に、母親や花ちゃんからの〝そろそろ焦りなさいオーラ〟が変なプレッシャーになって、結婚どころか恋愛すらできそうな気配はない。
だったら恋愛結婚が望めない者同士、利害の一致ってことでこの結婚に乗ってみるのもアリなのかな……?