契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
彰さんってば嘘つきで二重人格なのに、こういう時は紳士だから調子が狂う。
夜の静かな住宅街のなか、自宅の前で男の人とふたりきりっていうシチュエーションもいかにも〝デートの終わり〟といった雰囲気で、なんだか照れくさいし。
「今日はご馳走様でした。じゃ、また……」
なんとなく彼と視線を合わせづらく、逃げるように玄関に向かって歩き出そうとしたときだった。
「結奈」
名前を呼ばれるのと同時に、手首をぐいっとつかまれた。そして振り向いた瞬間、唇にふわりとやわらかい熱が触れた。
それはさながら求肥のような、とろける甘い感触で。
……って、いや、求肥じゃない! これは、彰さんの唇!?
そう理解した途端、心臓があり得ないくらいに大きく跳ね上がった。
ななな、なんじゃこりゃ~!
突然のキスに内心はパニック。けれど体は逆にかちんこちんに固まって動けない。
唯一動かせる目であちこち視線をさまよわせても、彰さんの美しいお顔のどアップが眼前に広がっているだけ。
もうっ。どういうことなのか、誰か説明して~!
理解不能の状況に脳が沸騰寸前にさしかかったところで、ようやく彰さんの顔が離れていった。
それから、ほんのり潤った唇の端がくいっと上がり、不敵な笑みで私を見据える。