契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
肩を落として嘆いていると、彰さんはくるりと体の向きを変えて、それからちょっとだけこちらを振り返る。
「そんなに俺のことがすぐ理解できてたまるか。徐々に、ゆっくり教えてやるよ」
そうして手をひらひらさせ車に乗り込むと、あっという間に目の前から走り去ってしまった。
私は無意識に左手を目線の高さまで上げ、そこに輝くリングを眺めた。
ご両親との会食の直前、車の中というロマンも何もない場所で順番に互いの手を取り、嵌め合った夫婦の証。
まだ彰さんの妻なんだという実感は全くないけれど、その事実が夢でないと、この指輪が物語っている。
でも、あんなつかみどころのない人が夫で大丈夫なんだろうか。先行きが不安でしょうがない。
私はひとつ大きなため息をこぼし、玄関に向かう。その途中で、はっと気が付いた。
玄関のドアが妙に半開きで、その隙間からこちらを見てニヤニヤしている人物がいる。
「お帰り~、結奈。さっすが新婚。アツアツねえ」
覗き魔の正体は母で、目が合うなり大げさに冷やかしてきた。