契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「おっ、お母さん! まさか、ずっと覗いてたの!?」
バタバタと玄関に押し入り、母を追求する。
「いいじゃない減るもんじゃないし。でも、アンタの気持ちがやっとわかってお母さん安心したわよ。確かに相手があんなにすごい人じゃ親にも話しにくいし、結婚を申し込まれても悩むわ。だから、ネットで彼の写真を見て物思いにふけったりなんかしてたわけね……」
いや……全然違いますけど。
そう思ったけれど、彰さんとの結婚は事実だし、彼の方でも母に何か吹き込んだに違いない。
都合よく勘違いしてせっかく安心してくれたのなら、わざわざ不安にさせることもないか。
私はいろいろ諦めて、御曹司との結婚に悩んでいた娘を演じ始める。
「……そうだよ。道重堂の御曹司に好かれるなんて夢じゃないかって思ってたし、身分違いだから結婚も迷っていたの。でも、書きかけだった婚姻届を彼が知らないうちに出してて、私への想いは本物だって示してくれてさ。お母さんが彼に協力してたとは知らなかったけど、とりあえず私たちうまくいったから。ごめんね報告が遅れて」
神妙な顔で説明したら、母は瞳を潤ませて私の両手をぎゅっと握った。
「そんなこといいのよ。目いっぱい幸せになんなさい!」
「うん。ありがとう」
――そしてごめん。彰さんの想いはまるっきり偽物です。
でも、彼との結婚生活には、男の人に愛されるのとは別の幸せが一応待っている。
私、大好きな和菓子の甘さに埋もれて幸せになるからね。
心の中で母に詫びるのと同時に、私はそう誓うのだった。