契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
こ、この人が、道重堂の社長……!? 和菓子マニアで道重堂のファンでもある私だけど、社長の顔までは知らなかった!
「み、美郷(みさと)出版の、神代です……!」
がたっと席を立ち、慌ててバッグをあさって名刺を差し出した。
「これはこれは、ご丁寧にどうも。道重です」
先ほどと同じく甘い低音でささやいた彼は、スマートな動作で名刺を受け取ると、じっと見つめてつぶやく。
「神代……結菜さん?」
「は、はいっ」
「ちょっとお願いがあるのですが」
「は……い?」
私は立ったまま首を傾げる。
初対面の私にお願いって……? 今回の取材に関することかな……?
「倉田。ちょっと席をはずしてもらえるか?」
そう言ってちらりと倉田さんに向けた流し目も、いちいち色気があって目が離せない。
「え。……はあ。わかりました」
倉田さんも何が何だかわからない様子だったけれど、社長の命とあれば従わないわけにもいかないらしい。言われた通り席を立って、厨房へ続くのれんの向こうへと消えていった。
倉田さんには内緒の話なのだろうか。でも、取材のことなら彼だって関係あると思うんだけど……。