契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
最後に案内された部屋だけが和室で、庭に面した窓側に広めの縁側が設けられている。
それを見つけた私は思わずそこに駆け寄り、嬉々として彰さんの方を振り返った。
「ここで庭を見ながら水ようかんでも食べられたら贅沢ですね……!」
「さっき水まんじゅう食ったばかりだろ。まぁでも、この縁側は俺も気に入ってる。仕事で煮詰まってるときにここで庭を見ながらぼんやりするだけで、ずいぶんと心が晴れるから」
そう教えてくれる彰さんの低い声は穏やかだ。この家は、彼にとって本当に居心地のいい場所なんだろう。
でも、今日からそこに私という人間が加わるってこと、忘れないでもらわないと。
彰さんの隣で、私はわざとらしい口調で言う。
「さらに水ようかんがあれば、妻の心も晴れやか。夫婦仲も良くなって最高である」
それを聞いて、彰さんがぷっと吹き出した。
「しつこいな水ようかん。はいはい。今度用意しとくよ」
「やった! 約束ですからね!」
しばらく他愛のない会話をしたあと、私は荷物を寝室のクローゼットに片付けた。
その後、自分用のベッドの方にぼふっと仰向けに倒れこみ、ぼんやり思いを巡らせる。