契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
6.彼の素顔に触れて

「倉田さん、いらっしゃい」

「こんばんは神代さ……じゃない、もう道重夫人だったな」

「夫人だなんて。結奈って呼んでください。道重の姓には自分でもまだ慣れないんです」

夕方六時ごろ、倉田さんが予定通り私たちの家を訪れた。

玄関で彼を出迎えリビングダイニングへ案内すると、料理の仕上げをしていた彰さんができあがったものをテーブルに並べているところだった。

「おう、彰。突然で悪いな。これ開けようぜ」

以前倉田さんは彰さんを〝社長〟と呼んでいたけれど、プライベートでは名前で呼んでいるようで、親し気に持参した日本酒の箱を見せている。

「超吟(ちょうぎん)ですか。張り込みましたね」

彰さんも店では倉田さんに敬語ではなかったはずだけれど、会社での立場が関係ない今は、ごく普通に年上の彼に敬語を使っている。

「そりゃ、大事なお祝いだからな。俺としては〝あの彰〟が嫁さんもらう日がくるなんて、感慨深いよ。……でも、相手が彼女だと聞いて納得だ」

倉田さんはちらりと私を見て、決して上手とは言えないウインクを送ってくれる。

意外とお茶目なんだ……。私ははにかんでお辞儀をし、彼に椅子を勧めると彰さんの手伝いに回った。


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