契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「待ってるのがお前なら、悪くないかもな」
相変わらず偉そうな上から目線だけれど、腹が立つよりもなんだか胸がソワソワして落ち着かない。
くすぐったいような、甘酸っぱいような感覚がじわじわと押し寄せてきて……なんだろう、これ。
不可解な胸の不調を感じながらバスルームに向かう彰さんの背中を見送り、そこでハッと気がついた。
もしかして……日頃の食べすぎがたたって胃酸が逆流してる? そうとわかったら早く胃を休ませなきゃ!
慌てて寝室に駆け込んだ私は、早々とベッドに入って目を閉じる。
けれどなかなか寝付けず、羊の代わりに「どら焼きが一個、どら焼きが二個……」と数えているうちに、ようやく眠りに落ちた。
*
彰さんと暮らし始めて一週間余りが経ち、彼の日常の姿がなんとなくわかってきた。
起きるべき時間より一時間前に目覚ましをセットして、そのあとベッドの中で延々ぼーっとしているほど、寝起きが悪かったり。
朝食はご飯派で、お気に入りのメーカーのしそ昆布を切らしているのに気づかなかったときにはちょっとだけしょんぼりしていたり。
仕事で疲れている日は、帰宅したあと夕食や入浴より先に、和室でお香を焚いて縁側に座りしばらく無言で庭を眺めていたり。
お風呂上がりに浴衣姿で濡れた黒髪を拭く姿は、一日の中で最もセクシーだったり。