契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「結奈に限ってそれはないって、俺だってわかってるよ」

彰さんはふっと笑って、私の頭に大きな手をポンと置く。

きゅう、と心臓が締め付けられる感覚がした。

「ただ、この店はオープンしてからずっと、予約が数か月待ちだと聞いた。たぶん、今からじゃ間に合わない」

「なんだ……そっか、残念」

わかりやすく意気消沈した私は、スマホをテーブルに戻す。

そしてさっきまで見ていたテレビ番組に向き直った時、彰さんがこんな提案をした。

「甘いものが食えて混んでない場所、俺が連れてってやろうか」

「えっ。あるんですか? そんな穴場が」

私の問いに、彼は〝任せろ〟というふうな笑みで頷いた。

胸にまたひとつ、明かりが灯るような温かさを覚えた。

甘いものへの期待ももちろんあるけれど、もうひとつ私は期待していることがあった。

……彰さんとの生活に慣れてきたこの頃、思うんだ。

本気で結婚したい相手が現れるのを待たなくても、今そばにいる彼を好きになって……愛せばいいんじゃないかって。

だって、彼はありのままの私を否定せず、尊重してくれる。そんな人に出会えるって、奇跡に近い。

だから、私ももっと彼を知りたい。ありのままの彰さんの姿を見たい。

そして彼を……好きになりたい。

そのためにはもっと、二人で色々な時間を過ごした方がいいと思うのだ。


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