契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「みんな、夏を満喫してますね」
自然とそうつぶやいた私に、彰さんが尋ねる。
「こう見えて俺も満喫してるんだけど、お前は?」
あまり派手に感情を表現しない彰さんだけど、言葉にしてくれると一気にうれしくなる。
「私もです。今、すごく楽しい」
満面の笑みで答えると、彼はホッとしたように息をついた。
「……よかった。こんな何もない場所に連れてきて、大丈夫かと思ってたから」
「何もない? こんなにきれいな海とあんなに大きな山と、この美味しい空気があるのに?」
周囲をぐるりと見渡しつつそう言ったら、彰さんがくすりと笑って意地悪な口調になる。
「空気で腹いっぱいなら、今日はもう何も食べなくていいな」
「だ、誰がそんなこと言いました? 私は空気が美味しいと言っただけです! そもそも今日は、彰さんおすすめの甘いものを食べさせてくれる約束じゃないですか!」
ムキになって言い返すと、彰さんがわざとらしく感心したように言う。
「さすが。食い物のことは忘れないな」
「当たり前です! 私のアイデンティティですから!」
語気を強めながらも、私は途中から笑っていた。