契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
何が楽しいかって、彰さんの前ではいつでも自分が自分らしくいられるのだ。
今まで、前の彼氏が別れ際に残したセリフを少なからず気にしていたから、男の人の前では和菓子マニアであることを隠したり、小食に見せたりしなきゃいけないのかなとぼんやり思っていた。
でも彰さんの前ではその必要はなく、それがすごく居心地よく感じられる。
「あのっ」
ふいに彼に伝えたい思いがこみ上げ、私は歩みを止めた。手をつないだままなので、彰さんも引っ張られるような形になり足を止める。
不思議そうにこちらを振り返った彼と目が合うと、押し寄せる恥ずかしさに負けそうになる。
でも……本物の夫婦になりたいのなら、思ったことは伝えなきゃ。
私は顔を上げ、すうっと息を吸ってから言った。
「もし、海も山もなかったとしても……彰さんがいてくれれば、私は楽しいです。こうして手をつないで他愛ない話をするだけでも、きっと」
「結奈……」
彰さんが、感じ入ったように私の名を呟く。そのまま無言でじっと見つめられ、今度こそ照れくささに勝てなかった私は、視線を砂浜に落とした。