契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

どうしよう。彰さん、急に変なこと言いだした私になんて返したらいいのか、困ってるのかも……。

打ち寄せる波の音だけが妙に大きく聞こえ、気まずさに耐えかねてぎゅっと目を閉じた瞬間だった。繋いでいた手をぐいっと引かれて、私は彼の広い胸に抱き留められる。

「あ、彰さん……?」

まだ明るい昼間、しかも人目のある場所での突然の抱擁に戸惑い、頭がパニックになる。

彰さん、どうして急に?

私の顔はおそらく真っ赤だろうから、それを隠せているのはいいけれど……。

そんなことを思う私の耳に、彰さんの静かな低音がささやく。

「聞こえるか? 俺の心臓の音」

「え?」

言われてみて初めて、密着している彼の胸に意識を集中させる。

すると、とくん、とくんと脈打つ、確かな鼓動が聞こえる。その速度はたぶん……私と同じくらいか、それよりも。

「聞こえて、ます……けっこう、速い感じで」

ありのままを伝えると、彼は私を抱きしめる腕の力をさらにぎゅっと強めた。

「……こんな速いの。たぶん、お前のせいだから」

甘さをはらんだ声色で伝えられ、今度は自分の鼓動が一気に速度を増す。

彼に抱きしめられながら全身で感じるドキドキは、もはやどっちの心臓の音かわからなかった。



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