契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
そこまで言って、社長は急に眉間にしわを寄せ、表情を曇らせた。
はぁ、イケメンは苦悩の表情すら画になるんだなぁ。なんて、呑気なことを思っていたのだけど。
「俺の、母親が……末期の癌で、余命が、あとわずかしかない。母親は、ひとり息子である俺が結婚することを楽しみに待っていたが、生きているうちに願いを叶えてやれそうになくて……だから……」
低い声に苦しそうな吐息を混じらせて語る社長に、胸がズキっと痛くなった。
そんな……。彼は見た感じまだ三十代前半くらいで、その母親ということは、五十代のうちの親とさほど変わらない年齢なはず。
その若さで、余命がもうわずかしかないだなんて……つらい、の一言では表せないほどの無念さだろう。残された時間で、どうにか親孝行をしたい……そう思うのも頷ける。
「だから……とりあえず、独身女性であれば誰でもいいから、婚約者のフリをしてもらって、お母さんを安心させてあげたいってことですか?」
気遣うようにそうっと尋ねれば、彼は顔を上げて静かに首を横に振った。