契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
私がそんなことを思っていると、冬樹さんは事務的に話し出した。
『洋菓子店vanillaの社長平川氏が今朝海外から戻られ、その足でうちの本社に現れました。どうしても社長にお会いしたいと』
聞き覚えのある店名だったので、私は思わず聞き返していた。
「vanilla……って、あのスイーツバイキングの?」
『ええ、さすが奥様ですね。社長からお聞きしている通り勉強熱心な方のようだ』
「いえ、そんな……」
vanillaを知っていたのは、ただの食いしん坊のせいなのだけど。
それにしても彰さん、秘書に私の話なんかするんだ……。しかも〝勉強熱心〟と褒めてくれていたなんて。
意外な姿に小さなときめきを感じつつ、冬樹さんの話に耳を傾ける。
『社長は夏季休暇だとお伝えしたら、平川氏もまた日を改めると仰ってはくださったのですが……。帰り際〝自分が現れたことを必ず社長に伝えろ〟とただならぬ迫力で言い残されたので、早急にお伝えした方がよいかとご連絡した次第です』