君にチョコはあげない
♡
帰り道、私はひたすら、ケーキをどうするかだけ考えていた。
あんなことあったんだもん、しばらく遥と話す自信はない。
あわよくば、このままずっと、話せなくなった方がラクなのかもしれないとまで思ってしまう始末。
かと言って、遥のために作ったケーキを自分で食べるほど、虚しいことはないだろうし。
お父さんとかお母さんに食べてもらっても、それはそれで怪しまれるだろうし。
そもそも二人にはもう、バレンタインのお菓子はあげたし。
…遥が帰ってくる前に、遥ママに預けようかな。遥ママに申し訳ないけど。
そう結論が出たとき、ちょうど家についた。
親は共働きだから、いつも通り空っぽの家のドアに鍵を挿して、誰もいない玄関に「ただいまー」と言った私の声が木霊した。
ケーキ届けるなら早くしないと、遥が帰ってきちゃう。
鉢合わせするのは避けたい。
そう思って、さっさと手洗いうがいをしてから、真っ直ぐ台所にある冷蔵庫まで行った。
冷蔵庫の中から慎重にケーキを取り出して、ちょっと不格好だけどラップをかける。
ケーキを見て、昨日慣れない英語の筆記体で、「Happy Birthday!遥!」なんて書いて、それが思いのほか上手く書けたから、すごく喜んだことを鮮明に思い出した。