君にチョコはあげない
「…由里子」
「ん?」
「…私ね、帰ったらケーキ焼くの」
「今年こそ、バレンタインのお菓子、作るつもり?」
少し試すような口調になった由里子に向けて、私は静かに首を振る。
「違うよ。…ほんとはね、誕生日なんだよ、明日。遥の」
「え、そーなの?」
「うるさくなっちゃうからって、ほんとはみんなには秘密にしてるんだけどね、遥が」
小学生のときも徹底して秘密にしてたけど、私だけは遥の誕生日を知ってたから、知りたがってる女の子たちに「知らないよ」って噓をつくのは、ちょっとだけ心苦しかったけど、どこか誇らしくもあった。
「バースデーケーキ、作るの?」
「…うん。今年は特別だから」
「特別?」
「そう、とくべつ」
半分は、ほんと。
でも、もっと本当のこと言うと、実は毎年、練習してたんだよね。
いつか、自分でも満足できるくらいのケーキが焼けるようになったら、全部自分で作って、遥に食べてもらいたいからって。
最近やっと、できるようになって。