君にチョコはあげない


「…由里子」

「ん?」

「…私ね、帰ったらケーキ焼くの」

「今年こそ、バレンタインのお菓子、作るつもり?」



少し試すような口調になった由里子に向けて、私は静かに首を振る。



「違うよ。…ほんとはね、誕生日なんだよ、明日。遥の」

「え、そーなの?」

「うるさくなっちゃうからって、ほんとはみんなには秘密にしてるんだけどね、遥が」



小学生のときも徹底して秘密にしてたけど、私だけは遥の誕生日を知ってたから、知りたがってる女の子たちに「知らないよ」って噓をつくのは、ちょっとだけ心苦しかったけど、どこか誇らしくもあった。



「バースデーケーキ、作るの?」

「…うん。今年は特別だから」

「特別?」

「そう、とくべつ」



半分は、ほんと。

でも、もっと本当のこと言うと、実は毎年、練習してたんだよね。
いつか、自分でも満足できるくらいのケーキが焼けるようになったら、全部自分で作って、遥に食べてもらいたいからって。

最近やっと、できるようになって。




< 4 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop