君にチョコはあげない
こんな状況、今まで数え切れないほどあったのに、今日がバレンタインで、遥の誕生日だというだけで、こんなにもドキドキしてしまうなんて。
…まぁ、ドキドキしてるのはきっと、私だけなんだろうけど。
「…なんで、いるの」
「え」
大好きな幼なじみを待っていて、第一声がそれだとさすがに堪える。
冗談めいて言ってくれればまだよかったのかもしれないけど、遥は至って真剣な顔。
「は、るかを待ってて…」
「帰ってればよかったのに」
「…っ」
きっと、他の誰かからそう言われても、何も感じない。
だけど、遥にそんなこと言われちゃったらさ。
「…ごめん、やっぱ帰る」
「いや、違…」
はっとしたような遥の返事だって無視して、私は教室から飛び出した。
サッカー部のエースでもある遥に足で勝てる自信なんて微塵もなかったけど、私は全速力で走った。
…喜んでいいのか落ち込んでいいのかわからなかったけど、遥は追いかけてこなかった。