◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
 仕方なく夏コミでの出来事を話し終えた愛里に、社長は何と返せばいいのかわからないように「なんてこった」と小さくつぶやいた。

 自分の会社で作っていたネジが元請け大企業に高く評価されるというビッグドリームをこの場で打ち砕かれた社長はちょっとかわいそうだったけれど、期待して後から知るよりはいいだろう。

 しばし沈黙した後、これを契機と捉えなおしたらしい社長は顔を上げると言った。

「スーツはとびっきりの可愛さ重視のを僕が買ってあげよう。本社まで送って行ってあげるから。もちろん帰りもね。ああ、よしこ、おまえも来てくれ。愛里ちゃんのスーツを見繕って」

 社長は奥さんを呼ぶと、車の鍵を取り出して出口へ向かう。
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