◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
 FUJITA電機の敷地は愛里の通っていた私立大学の七倍ぐらい大きく、道も自動車学校のコースのように特殊な形をしていて、脇には作り物みたいな並木が続いていた。

「ええと、本社はいったいどこだ」
「とりあえず、駐車場に一旦停めたら、案内が出てるんじゃない?」

 社長と奥さんのよしこさんが口々に言い合いながら、迷い迷い近づいていく。それっぽい建物を見つけたので脇に停め、社長の奥さんが社長から運転を代わる。

「じゃあ、終わったら連絡してね。迎えに来ますから」
「ああ、よ、よ、よろしくな」
 社長が震え声で応えて片手を上げる。

「頑張ってね、あなた、愛里ちゃん」
「は、はい」

 愛里もつられて声が上ずった。
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