◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「へー」
あまりにも自分の人生とは違いすぎる。と愛里は思った。
愛里は小さなネジ工場である丸井螺子に身を置いているが、それは漫画家として生計を立てられるまでの仮の居場所のつもりだ。一方で尚貴は、生まれながらにFUJITAの重要な役職に就くことを決められ、長い年月をかけてそのための準備をしている。
「ぬるいよね」
「えっ?」
愛里は聞き間違いをしたのかと思い顔を上げる。尚貴は恥ずかしそうに言い直した。
「僕、漫画で生きていきたいって、言いながら、ぬるま湯に浸かってる」
愛里はなんと答えたらいいのかわからなかった。「仕方ないんじゃないかな? 責任重そうだし、ぬるいわけじゃないと思う」と言ってみたが、尚貴は首を横に振るだけだった。