◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「うーん、午前中はお目当てのサークルさんのところに直行する人ばかりだと思います」
愛里はコミケの先輩として、そのショックをできるだけ緩和してあげたいと思った。
「なるほどなるほど」
「午後になればゆっくり見て回ろうとする人も増えてきますよ。勝負は午後からです! それまでは、耐えるのです!」
そう、サークル参加者もやはり戦士。装備もさることながら、無視され続けてもめげない鋼鉄の心を持つ。何人に何度素通りされようと懲りずに作品を出し続けていれば、気に入ってくれる人がいつか現れる。それを知っている人が残っていく。
愛里は売れだすのは午後からだと経験上知っているから期待はしていない。
期待をしてしまうと、不安につぶれそうな顔をしているお隣さんみたいになるから。
そんな諦めが少し悲しくもあるけれど。
(私も、作品をあんな風に求められたい。いつか)
いつかは「売り切れる前に」と急がれる側になりたいなと憧れる。
その気持ちは、持ち続けたいと思う。