◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「お久しゅうございます。どうぞ」
運転手さんが愛里のためにドアを開けてくれながら、また天井に頭をぶつけぬよう手を添えて乗せてくれる。愛里は普段のように足から乗ろうとして、スーツのスカートが開かず、運転手さんもいて狭くて乗りにくい。
愛里がまごついていると、
「腰から乗ってみてくださいませ」
と、運転手さんが白髭を動かしてこっそり耳打ちしてくれた。
言われるがまま踵を返してお尻から乗ってみたらすごく上品な乗り方になった。
「すみません、ありがとうございます」
車内から小さくお礼を言うと、
「失礼を致しました」
とにっこり微笑んで一礼してくれる。
庶民の愛里からしたらこういう厭味のない指摘はすごくありがたかった。
何気なく尚貴を見ると、自然と愛里と同じ所作で乗り込んでいる。
(ああ、今のがスマートな乗り方、なんだろうな。車の乗り方なんて、考えたこともなかった。もしかして、正しい降り方なんてのもあるのかな……?)
急に緊張してきた。尚貴の行くようなレストランで食事なんて、うまくできるだろうか? 尚貴の真似をしようにも、限界がありそうだ。