◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
 乾杯用のスパークリングワインには、自家製だというスパークリングウォーターを目の前で注入してくれて、早くも「ほらね普通とはなんか違うぞ」と感じ始める。

 まず前菜として出てきたのはズワイ蟹を使った小さなタルトで、人差し指と親指で丸を作った大きさにも満たない量しかなかった。でもこれだけで一体いくらなんだろう。あと皿の周囲にソースが点々と置かれていてすごくおしゃれだ。

「どう? おいしい?」
「はい……」
 と答えつつも、正直、緊張で味が全然わからない。

 でも……ううん、やっぱ格別美味しいような気がする。

 あ、スパークリングワイン、食前酒って言ってたから食べる前に飲まなきゃいけなかったかな。
 愛里があわててグラスを手に取ると、それはぶどうの味がはっきりした辛口のもので、辛くてむせた。

「大丈夫? エリンギちゃん」
「ケホ、はい……」
 空になったグラスを置き、

「け、けっこうなお手前で」
 しまった。テンパって変なことを言ってしまった。

(わたし、茶道部かっ!)
 心の中で自分にツッコミを入れて、心の中でフフッと笑う。もう自分自身までわからなくなっていく。
< 201 / 295 >

この作品をシェア

pagetop