◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
彼はひらひらした裾で目頭を拭っていた。
だめだめ。辛気臭く泣いていては、客は寄り付かないよ。
でも、深い悲しみの中にいて、心細くなってしまっている彼にはどうすることもできないのもわかる。
愛里は「よし」と決めて、財布から千円札を出した。
「あの私、一冊買ってもいいですか?」
「……い、いいんですか?」
彼は、雲の切れ間から差し込む日差しにまぶしそうに眼を瞬かせるように、そう尋ねてきた。
「はい。見てみたいなって。あなたの本」
醸し出す不思議な空気感から、彼の描く作品はたしかに気になった。嘘ではない。
彼は自分の作品を大事そうに、こわごわ一部手に取ると、
「ありがとうございます、初めてのお客様」
こぼれんばかりの、とても嬉しそうな笑顔で差し出してくれた。