◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
(そういえば、手切れ金返さなきゃな……忘れてた)

 お金を受け取りながら、愛里はひきだしにしまったままの手切れ金を思い出した。手を切るように言われて郡山からもらったものだ。結局こうして尚貴の隣に座っている以上返さなくては。胸の中にずっと引っかかってはいたのだが、今日は準備に忙しくてそれどころじゃなかった。

(今度持ってこなくちゃな……)

 なんとなく窓の外を眺めていると、白い高い壁がずーっと続いていることに気が付く。
 
 これってまさか。
 警備員らしき人が出入りする詰め所が見えた。

 けど、あれっ? 通り過ぎた。
 ここかと思ったら、違ったかな。

 結婚式場か何かだったかもしれない。

 しばらく進む。

 なんだか森の中の細道のようなところを通る。

(あれっ、さっきまで住宅街だったのに)

 その中ほどで、また白い壁が現れた。
 先のとんがった柵が音もなく開いていく。

 わ。

 やっぱり、ここが藤田邸なんだ。木々に覆い隠された中の門の前に車が止められた。
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