◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

「私なんかが初めてですみません」

 どちらかというと、彼のこの笑顔が見たかったのかもしれない。ま、いいじゃないか、どんな理由で買ったって。

「ありがとう。とても、とても嬉しいです」

 よかった、笑ってくれて。

 泣いてばかりのコミケ初参加者を、どうにか励ましたかった。
 コミケに来てよかったと思って帰ってもらいたかった。

 愛里は頷いて言った。

「よかった。感想も話させてくださいね」

 売れるのも嬉しいが、感想をもらえるのは、さらに嬉しいのを知っている。

 予想通り、というか予想を超えて、彼は泣き出した。
 鞄から取り出したレースのついたハンカチがどんどん湿っていき、美しかった鼻も赤くなって、悲惨なことになっている。

「ありがとう、ありがとうございます。本当にありがとう。この日のために準備してきたから、売れないまま帰りたくなかった」

 わかる。わかるよその気持ち。
 こんなに喜んでもらえたら、買った甲斐があったというものだけど。

(よし、これはもう、絶対に感想を伝えなければ!)
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