◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

「じゃあ郡山……僕は席を外そう。あとを頼む」
「承知しました」

「僕はエリンギちゃんの漫画を読んで待ってるから~」
「かしこまりました」

 尚貴は漫画本を手に、そそくさと出ていってしまう。

「ごめんね、エリンギちゃん……」

 去り際に意味深なセリフを残して。
 ……どういうこと?

 しん……とした中、郡山が、放たれたライオンのようにのそりと近寄る。

「尚貴様は私に後を頼むとお言いつけになり、席まで外された。言われていなかったらどこまでもお客様扱いしてやるが、これはつまり、思いっきりやれってことだからやらせてもらう」

 うわー久しぶりに、従者の仮面を外した「デキる年上男バージョン」の郡山さんだ。

「は、はい……望むところです!」 

 頼りがいを覚えたのも束の間。

「そうじゃない! 座る位置は座面の半分から三分の二の深さだって体で覚えろ! テーブルとの距離は握りこぶし一つ」
「はいっ」
「こら、そのまま進めるんじゃない。椅子を移動してもらいなさい。上半身はまっすぐキープ! ふらふらしない!」
「はいっ」
「鏡を見てみろ、それが美しい所作だと思うのか?」
「思いませんっ」
「ナプキンの置く位置が違う。中座は左で退席時は右。また戻ってくるつもりか?」
「はいっ」
「あのな、何回言わせんだ!? 集中してないだろ!」
「ひぇっ」
「ダメ。笑顔が消えてるやり直し」
「はひっ」
「やり直し!」
「はいっ」
「やり直し!」
「はいっ」

 防音壁なのをいいことに、怒号が轟く。
 ――超スパルタ特訓が幕を開けたのだった。
< 235 / 295 >

この作品をシェア

pagetop