◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
郡山が先に回り、重い鉄の扉を開けてくれる。照明が抑えられた暗くて上質な隠れ家のような空間に足を踏み入れると、
「いらっしゃいませ」
張りのある多重の声が迎えてくれた。
カウンターの向こう、お酒のボトルが並べられたスペースにバーテンダーが二人もいるようだった。
夏目漱石みたいな口ひげが特徴の五十代ほどのバーのマスター、それから若いイケメン男性のバーテンダーさん。
尚貴が席に着き、高い椅子を愛里のために引いてくれた郡山は役目が終わると壁際に立つ。
バーテンダー達の自己紹介が始まり、簡単な挨拶を交わすと、
「先ほど尚貴様と作品を拝見させていただきました。ご食事の間にも読ませていただいておりました」
マスターがふごふごと喋る。
「あ……ありがとうございますっ」
普通キャラカクテルといえば資料の持ち込みは不可で、指定のオーダーシートに記入した限られた情報の中からバーテンダーに読み取って作ってもらうものだけれど、プライベートバーなだけあって、作品を丸ごと読み込んだ上で作ってくれるみたい。