◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 朝起きたら寝巻に着替えさせられて、メイクまで落とされていた。寝ている間にエステティシャンが綺麗にしてくれたんだそう。目覚ましのアーリーモーニングティーを運んできたメイドさんが、カーテンを開けながら教えてくれた。

 愛里が着てきた服は全てクリーニングされ、ビニールを被せられて渡された。夜のうちにやってくれたんだとかで、申し訳なさとか恥ずかしさとかよりも驚嘆が勝った。私生活に人手が加わっているって、すごすぎる。

(なんかもう、異世界にいるみたい……)

 尚貴に会う前に身支度を済ませられるよう気を回してくれたりもした。尚貴の私室にはバスルームもあって、そこで朝風呂を済ませた。

「おはよう、エリンギちゃん。よく眠れた?」

 準備が終わる頃に、尚貴が迎えにきてくれた。

「おはよう、うん。ごめんね、結局泊めてもらっちゃって。しかも、お部屋も借りちゃって……」
「いいのいいの」

 尚貴は昨日とはまた違う英国風スーツを着ていて、髪も整えられていた。一緒に、早朝からホテルのような朝食をいただく。
 そして藤田家の車でそのまま出社することになった。

 ちっぽけな(有)丸井螺子の、ゴミなんかが転がっている薄汚い駐車場で、
「ご到着でございます、愛里様」
 運転手に丁寧に降車のお手伝いをされて、鞄も郡山に両手で捧げ持つようにして渡されて、

「「行ってらっしゃいませ」」
「行ってきまーす」

 会社の玄関からは、いつも出社の早い里中さんが目を丸くしてこっちを見ていた。

 終わるのが惜しいような、いつもの気楽な日常に早く戻りたいような。

 土産話付きで戻るのは、悪くないな。
 ……夢のような世界だった。

 すると車の窓から尚貴が顔を出して言った。

「また遊びに来てね、エリンギちゃん」
「うん、ありがとう。また」
「今度、漫画一緒に描こうよ! 作業部屋あるからさ、手ぶらで来てくれても描けるよ!」
「それ、楽しそう! やりたい」

 なおさんも、楽しいと思ってくれたんだ。

 夢じゃないって、期待しても、いいのだろうか。
 こんなに世界が違うけど。
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