◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
 メイドや執事に見送られて愛里が帰る間際、尚貴がぼやく。

「あーもっと創作の時間が欲しい」
「それは思うよね」

 愛里も頷く。でも、尚貴は天下のFUJITAの御曹司で、将来に向けた修行をしている身だ。現実的に、今の状態が精一杯だろう。

 メイドが淹れてくれた紅茶を飲みながら、プロの漫画家よりも充実した作業環境で漫画を集中して描いていられるだけでも、愛里にはもったいないと思う。

「僕はやっぱり漫画家を目指したい」

 だが尚貴は、満足していない様子だった。

「それには、今の仕事は重すぎるよ……辞めたい」

 たしかに今後も責任はどんどん重くなっていく一方で、というよりも将来重すぎる責任を与えられることを想定して今修行させられている。

「なおさん……」

 それはやっぱ、辛いんだろうな。

「もう少し、仕事をセーブしてもらうとかはできないの?」
「父さんが聞き入れてくれるとは思えない」

 会話に時折出てくる尚貴の父親。父親を語る時の尚貴の様子は、必ずと言っていいほど諦めた調子だった。

 そんなに厳しい人なのだろうか。

「話してみないとわからないんじゃない?」
「はぁ……。うん……」

 尚貴は気が重そうではあったけれど、渋々首を縦に振る。
 そんなことを話したすぐ後のことだった。
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