◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「車で迎えにきてもらえないかな」

 という突然のお願いがあって、いつものように尚貴の仕事終わりの連絡を自宅で作業しながら待っていた愛里はペンタブの手を止めてすぐに駆け付けた。

 専属の運転手さんを連れている尚貴が、こんな風に愛里を頼ることなんて今までないことだ。なにがあったのだろう。

「なおさん!? どうしたのいったい」

 尚貴の自宅から歩いて三十分くらいの場所に尚貴は佇んでいた。今ではだいぶ暑さもマシになってきたが、スーツを着たまま歩いていた尚貴の額には汗がにじんでいた。

「……家出したんだ」
「家出!?」
「正確には、半分家出、半分は追い出された」
「と、とりあえず、車に乗って!」

 愛里は尚貴を自分の軽自動車に乗せると、あてもなく発車する。
 郡山を連れていないピンの尚貴というのが、ひどく違和感だった。

「何があったの?」
「喧嘩した。父さんと」
「喧嘩……」

 これからどこへ向かうか考える余裕もなく、すっかり暗くなった夜道を自分の家に向かって進む。
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