◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「だけど……これからどうするの? 明日、仕事だよね」
「フジタにも来なくていいって言われた」
「そ、そっか……」

 それにしても、その軽装はいくらなんでも無計画すぎるのではないかと愛里は戸惑う。
 バッグもなく、持ち物はポケットに入れていた財布だけ。

「お金とか……大丈夫?」
「財布には十万くらい入ってるけど……」
「十万か……」

 大金ではあるけど、家もない状態では心許ない。
 どう考えてもまずい状況だ。

「とりあえず泊まる場所、どうする……? う、うちに、泊まる……?」

 男を泊めるなんてさすがに親がなんていうか怖い。
 なおさん=女の子で通す!?
 いやいやいや、バレたときが恐ろしすぎる。スーツも男物だからさすがに無理があるだろう。
 尚貴もどうしたらいいのかじっと考え込んでいる。

「一応、親に正直に言って、聞いてみるね。一晩くらいなら、許してくれるんじゃないかな……」
「すみません、お願いします」

 愛里は階段を下りてリビングに行くと、客人の気配にそわそわしている両親にお伺いを立てる。

 なおさん(男)が家出して、家を飛び出してきちゃって、困ってること、
 お金持ちで、大きなお屋敷で、最近自分がよく遊びに行っていた作業仲間の人で、作業が遅くなった際にはよく泊めてもらったりもしていたこと(部屋は別!)、
 付き合っているわけではないけど、付き合うかもしれないことまで、それとなく報告する。
 
「一晩だけなら、オッケーだって!」

 交渉の末、了承を得た旨を尚貴に伝える。
 親は二人ともかなりびっくりしていた様子だったが、まあ、人生いろいろだと言ってくれた。

「私はリビングで寝るから、なおさんは私の部屋のベッド使ってね」
「ありがとう」

 これで今日一日は安心だ。尚貴も安堵したように、ほっと溜息をついた。
 でも、問題は山積している。
 明日はどうするのか。

「なおさんは、仲直りして戻りたい?」
 愛里が尋ねてみると、案の定「いいえ」という返事が返ってきた。

「僕はこのまま家を出て、漫画家を目指します。そう決めました」

「そっか……」
 愛里は物わかりよく頷いてみせたものの、内心、まじか!? と驚愕する。
 無理なんじゃないかな、なおさん!?
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