◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 尚貴はうーんと考えて言う。

「明日、アパートを借りようと思う」
「じゃあ、私もいろいろ手伝うよ」
「ありがとう、エリンギちゃん。エリンギちゃんは引っ越しとか、一人暮らしとか、したことあるの?」
「私? 私は、ないなあ……ずっと実家」
「そっか……」

 沈黙。
 あの……アパートを借りるって、どうやったらいいのでしょうか?
 尚貴もまったくわからない様子だ。

「郡山、ちょっといい」
「はい」

 待ってましたとばかりに歩を進めるのが気に入らないような顔で、だが尚貴はしぶしぶ尋ねる。

「アパートを借りようと思う」
「はい」
「借り方がわからない。えーと、所持金は四十万なんだけど、これって、どれくらい生活できるものなの?」
「一般的には二~四か月は生活可能です」
「四か月も生活できるの!?」
「はい」
「ホテルに一泊したら消えちゃうと思ってた……」

 驚くところ、そこ!?
 愛里は尚貴の未来が前途多難な気がして頭が痛くなりそうだった。

「しかし住み始める際の初期費用や家具代を差っ引きますと、手元には十万円ぐらいしか残らないと思います」
「十万円……」
「尚貴様の場合、半月も厳しいかと」

 現実的なことがどんどん見えてくる。

「その間に職を見つけて働き始めなくちゃいけないってことだね」
「そうですね」
「仕事、仕事かあ……」

 尚貴は困ったように繰り返しながら、目の前の四十万円とにらめっこしている。

「仕事は、住む場所を見つけてからだ。アパートを押さえたい」
「かしこまりました。手配いたします」
「頼むよ」

 郡山はすぐさま自分のスマートフォンを操作してどこかへ電話をかけていた。部屋探しについては、郡山に任せればよさそうだ。尚貴は世間知らずだけれど、執事がサポートするなら家出もどうにかなるのかもしれない。
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