◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
仕事の間に入ったLINEによると、アパートは見つかったようだ。最低限必要な家具も買ったそうなので、愛里も仕事が終わったら手伝いがてら様子を見に行くことにした。
尚貴は愛里の家のほど近くに居を構えることにしたらしく、歩いて五分もかからなかった。尚貴の急なご近所さん化に戸惑いつつ、少し寒くなってきた夕方六時過ぎにスマートフォンのマップアプリを頼りに住所の地点まで行くと、なかなかのオンボロアパートを見つけた。
ここか……。
薄汚れた壁がひび割れている。洗濯機も外に置いてあるし。
カラスもおうちに帰る黄昏時なのも相まって、微妙にセンチメンタルな気分になった。
ビーーーーという時代錯誤なチャイムを押し、
「来たよー! なおさーん」と顔を出す。
こんな場所でも変わらぬスーツ姿の郡山がドアを開けてくれて、その後ろから喜び勇んで駆けてくる尚貴の姿――
「エリンギちゃん! お仕事おつかれさま!」
「なっ、その格好はいったい……!?」
に、衝撃を受けた。
なんという格好をしているんだ、なおさん……!
「もうそろそろ秋だし、少し寒いでしょ? だから、暖をとるためだよ! ……てへっ、なんてね。実はね、憧れてたんだ。こんな漫画家に」
そこには御曹司の袢纏(はんてん)姿があった。
袢纏!?
「♯」柄のちりばめられた紺色のTHE・袢纏をもこもこ着た、長身痩躯の美人なおさん。
「あ、あは、は、そう……」
楽しそうで何よりです。
ていうか、まだそんなに寒くないけどね。