◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 尚貴も作業がかなり進んでいたようだったけれど、腰が痛い痛いとおじいさんのように嘆いていた。それは愛里もわからなくないことで、座布団に長時間座っているとキツかったし、気分転換をしようにも部屋が狭くて窮屈で歩き回れない。

 最低限の作業環境は今も整っているものの、やはり前の作業部屋は本当に至れり尽くせりだったと改めて思う。

 前の広い作業場所にはL字型のデスクが二人分置かれ、さらに複数台のパソコンを用途に合わせて使い分けたり、椅子だってふっかふかの社長椅子だった。さらに、マッサージ師だって家まで来てくれるらしかった。

 今はもちろん、そんなところまで充実させる余裕はない。

(なおさんが、ずっと近くにいてくれたら、いいんだけどな)

 自宅に到着。
 
(いつか、夢を諦めて、家に帰っちゃう気がする)
 
 それは仕方のないことだ。

 尚貴は職場ではとても単純な軽作業を任されているらしく、仕事が難しいということはないようだったが、始まって三日で早くも飽きてきたらしい。それと節約のために郡山が三食手料理を作っているが、舌の肥えた尚貴は文句をつけてばっかりで、郡山がちょっぴり気の毒だった。

(執事付きの恵まれた家出……でも、今までが今までだもん)

 始まったばかりの今は物珍しさが勝っても、しばらく続けば疲労の方が勝つのは目に見える。

(この日々も、大切にしなくちゃね)

 そう思いながら、愛里は寝支度を整えて目を閉じた。
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