◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

「でも、僕は、応える気はない」
「なおさん……!」
「僕は自分の漫画を信じてる。夢を叶えられると思ってる」

 すっかり板についた尚貴の袢纏姿が、今の愛里には眩しすぎて、目を逸らした。

「今の僕は無力だし、結果は出ないし、正直、苦しいよ。苦しい。楽になりたい気持ちだってすごいある。けれど、それでも諦めて実家に帰るくらいなら、僕は人生を終わらせる方を選ぶ」

 世間知らずの御曹司が、厳しい現実を知ってもなお、意志は変わらないらしい。

「だからこのまま、ここで生きていくよ」

 尚貴はこんなに不自由な思いを実際にしているのに、それでも頑として首を縦には振らない。

 見上げた根性だ。

 藤田尚貴という一人の青年は、こんなにも強く気高い夢追い人だったのか。

 愛里はもう認めるしかないのを感じた。
 尚貴の決意が本物であることを。

 羨ましいくらいに純粋で、恐ろしいくらい屈強な信念があるのだと。
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