◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 食事は郡山が三食作って食べさせているというが、尚貴の給料では食材も満足に用意できなくて、質素だとか。初めは不満を漏らしていた尚貴だが、最近では仕方ないと受け入れて何も言わなくなり、気が進まない時は食べないままで、そのせいか、もともと細いのに前よりさらに痩せた気がする。

 「貧しい絵描き」というのは、どうしてかどこの時代にもいるというが、きっと、そういう人種があるのだろう。芸術の才能を発揮してしまう遺伝子の組み合わせがあるのだ。

 尚貴はそういう類の人種なのだろう。

「もーう見ちゃダメ、エリンギちゃん」

 画面を隠す尚貴に、愛里ははっと我に返って目を伏せる。

「み、見てないよ」

 うん、見てたのは画面じゃなくて、なおさんです。たびたび、すいません。
 ていうか隠すなんて、もしやエッチな作品でも描いているのだろうか。

 でも、いけない、いけない。
 自分も制作に集中せねば……。
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