◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
 でも、それも仕方ないと愛里は思うことにした。

 愛里だって、夢を追うために頑張っている一人だ。

 もともと、ここに来た理由も、仲間と集中して漫画を描くためであって、決して尚貴に会うためではないのだ。

 そうだよ。だから、漫画を一生懸命やろう。

 そう思っても、思おうとしても、心がじくじくと痛みだす。
 寂しさに凍り付くような、焦る気持ちが沸き起こってくる。

 叶わない思いを抱えたまま、尚貴と一緒に原稿を描かないといけないというのは、思った以上にしんどかった。

「ちょっと、外の風に当たってくる」

 愛里はそう言うと、立ち上がった。尚貴は画面に向かったまま「うん」と頷く。

 薄いドアを押し開けると、暗い夜の空が広がっていた。

 寒い。
 凍えるような寒さだ。
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