◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 郡山はうまそうに紫煙を吐き出すと、

「いや、タバコ吸いたかったし、なんてな、はは」

 なんて笑うけれど、本当だろうか。

「大変ですね、執事さんって」

 愛里はタバコなんて吸ったことがなかったが、タバコが好きな人は職場にもいて、しょっちゅうタバコ休憩をしていたから、なんとなくわかる。
 すると郡山は、大きなため息をついて言う。

「いや、もうへとへとだよ。タバコはまあ、いいんだが、まさかあのボンボン坊ちゃんが、ここまでのタマだったなんてサ。俺の方がついていけねえよ」
「そっか……。お疲れ様です」

 たしかに尚貴の影響を最も受けているのは郡山だろう。言ってみればある日突然僻地に転勤を命じられたようなものだ。

「なんで俺は、いま弁当作ってるんだ? ボロボロの靴下の穴を縫ってるんだ? ってたまにわからなくなる」
「はは……」

 大豪邸で働いていたときにはまさかそんな技能が試されることになるとは思いもしなかっただろう。愛里は思わず同情した。
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