◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
郡山は紫煙を吐き出すと、ワックスで固めた黒髪頭を掻きながら、
「ああ、俺に敬語はいらんよ。つーか、本当は、坊ちゃんの友達なら、坊ちゃんがいなくったって、俺は執事としてお仕えしないといけないんだけどな。だから、それでおあいこってことで、どうだ、愛里嬢?」
そう提案してくる。
「そっか……うん」
尚貴も郡山に対してタメ口で話していたから、その感じを引き継いでみたら意外と自然に言葉が出た。
それよりも。
「うん……友達、ね」
抑える間もなく、愛里の目尻から、つーっと涙がこぼれた。
沈黙。
「あー……」
郡山は砂利を踏み、こちらへ歩み寄る。
タバコの匂いと男の人の香水の匂いが、ぐずついた鼻に届く。
「えーと。確認だけど、フラれたのか? 坊ちゃんに」
「うん……」
フラれた。言葉にしてはっきり言われるとまた凹む。
「ふーむ……。そりゃ、まあ、残念だったな」
「うん……。……っ、……ひっく……うぇぇん」
「よしよし。まあ、泣いとけ泣いとけ。うん」
郡山は大きな手で、ぐっと肩を抱いてくれた。濡れるのも構わず厚い胸板に力強く押し付けられて、愛里は、しがみつくように泣いた。