◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
「……でも、そうか。俺はてっきり、両思いだとばっかり、思ってたんだけどな」
やっぱり、そう思うだろうか。
尚貴が自分を好いているだろうと思っていたのが自分だけじゃないと知って、ほっと嬉しくなる。
「わ、私も……ひっく……そう、だと、思ってた……けど……」
「うん」
「夢を追うから余裕ないって……言われて……」
「ああ、まあ、そういう理由ね」
郡山は納得したように頷くが、
「でもなんかもう、自信なくなっちゃった」
もしかしたら尚貴はもう愛里のことを恋人対象としては見ていないんじゃないかとまで、愛里には思えてきていた。少しでもいい想定をすることが、トラウマのように怖い。また勘違いして、ショックを受けたり落ち込みたくない。
郡山は愛里に吹きかけないように外を向いて煙を吐き出すと、また吸って、また吐く。そして、「焦っても仕方ないからな」と言った。
「坊ちゃんも愛里嬢も、一歩ずつ自分で歩いて、確かめていく先で、きっといろんな変化があるさ」
愛里は止まらない涙を指で拭っていると、郡山が白いハンカチを貸してくれた。こんなもの持っているくせに、黙って胸を貸してくれたんだと思うと、その優しさにまた涙が出てきた。
「だから安心して今を歩けばいいと、俺は思うけどな」
「……安心して、今を……?」
「うん。愛里嬢は坊ちゃんが好きで、坊ちゃんもきっと愛里嬢のことが好きなんだろう? だったらちゃんと、なるようになるからサ」
笑う口元の、小さな赤い灯りを、ぼんやり見つめる。
自分より長い人生を歩いてきた分だけ刻まれた皺に、愛里は小さく頷いた。