◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 全身全霊、怒りを込めて睨みつける。


 私は怒りに震えているのだと。

 その真剣さは、齢二十五の自分より年上であろう郡山という堅物にも、息をのませた。

 
 わかったか、部外者。
 わかったら出て行け。

 ここはコミケだ。戦いの場なんだよ。



 しかし、彼は予想に反したことを口にした。

「……では、私にも一冊いただけますか」

「え?」

「買ったら、ここにいさせてもらえますね?」


 アラサースーツの郡山は、一冊買わせてほしいと、それを冗談で言っている感じではなかった。

 その顔は今や無表情ではない。

 こちらとまったく同じくらいの真剣さで睨み返している。


 バチバチと火花が飛びそうなほど睨み合う二人の狭間で、



「郡山……、買ってくれて、どうもありがとう」

 尚貴だけが、嬉しさの涙を目に光らせてにこにこと微笑んでいた。

< 34 / 295 >

この作品をシェア

pagetop