◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
――やれやれ。
侮辱を受けたはずの当人に毒気を抜かれたことで愛里は怒りの矛を収め、郡山は、
「はい。では、そちらに失礼します」
と言って、「尚貴様」の背後にビシッと立ち続けた。置物のようにもう微動だにしない。
愛里は落ち着かないし、さっきのことも、まだ解消したわけじゃなかったけれども。
買ってもらえることになって尚貴さんは喜んでいるみたいだし、まあ、いいや、と、無理やり気を逸らすことにした。あとこのおっさんにガツンと一喝したことで、ちょっとは気が済んだこともある。
尚貴ももう気を取り直すように道行く人に熱意のこもった視線を投げかけている。そして、
「ねえ郡山。もう来ちゃったんならさ、店番してて。トイレ行ってくるから。一冊四百円ね」
「かしこまりました」
先ほどのことなど、まるで当然のように受け流して、もう頼って、トイレに去っていく。
この郡山って人が傍に控えているのは、この謎のプリンスにとっては日常風景で、あんなふうに、表現の自由を制限されることも、もしかしたらあの人にとっては、普通のことなのかもしれない。