◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。
それから、お隣さんが熱のこもった視線を投げかけ続けること数時間。客足は途絶えたまま、無情にも閉場のアナウンスが響いた。
結局、お隣さんは愛里の買った分と郡山の買った分を合わせた二冊の売上げに終わったようだ。愛里が席を離れていた時間もあったが、几帳面に並べられた頒布物の配置が変わっていない。
ま、一冊も売れなかった自分の初参加の時よりマシかな。
今でこそ、愛里にはリピーターになってくれたお客さんが数名いるが、それだってごくわずかだ。それでも有難いことで、今後も地道な努力を続けようと思っている。
しかしそんなことは知らぬ尚貴はやはり過度な期待を抱いていたのだろう。中身が全く減っていない段ボール箱を無言でサクサクと台車に積み替えていく郡山を見つめるその顔は、悲しみに暮れていた。
「やっぱだめかあ」
ひとりごちる尚貴に、郡山は苦々しく無言で返すだけで。
彼はこれからこの郡山と、帰路を行くのだろうか。
「……何やってんだろうね、僕」
そんなつぶやきが、聞こえてきたりして。