◎あなたのサークルは、世間知らず御曹司の隣に配置されました。

 することがもうない愛里はなんとなくその様子を眺めていた。

 手つきがすごく優しくて、ピアノでも弾いてるみたい。どこか浮世離れしている。宝塚歌劇団とかそのまま出られそうな。ついつい見蕩れてしまう。

 が、そんな優雅な準備などお構い無しに、スタッフの巡回受付が来てしまった。

 巡回受付とは、参加した証明書や見本誌の提出を受け付けるために各サークルを回っているボランティアスタッフのことだ。
 愛里は準備してあった参加証と見本誌を渡す。
 スタッフはにこにこと微笑みながら受理して、まだ絶賛準備中の隣へと移った。

「見本誌シール? そうか、そんなのもあったんだ。そっちの封筒は置いてきたな。どうしよう」

 みるみる顔が青ざめ始めたお隣さん。

 あ、この人、見本誌シール忘れたんだな。

 愛里もやったことがある。このシール、当落発表前の別の封筒に入っているので、忘れがちなのだ。
 
「すみません見本誌シール、余ってませんか?」
 案の定、お隣さんはこちらに助けを求めてきた。
 
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