上司と私の偽恋愛 ※番外編追加しました※


“ ブブブ ブブブ ”
その時、上着ポケットの中でバイブが鳴っているのに気づき携帯を取り出すと画面を見て俺はため息を一つつく。


『真奈美か?』

『尊……もうダメかも』

『あのなぁ、昨日も同じこと言ってなかったか?』

『なによ、尊まで呆れたような言い方するのね』

いくつかこんなやり取りをしたあと電話を切る。
特に何か言って欲しいというより愚痴を少し聞いてあげると気持ちが楽になるのかいつも大抵は数分で終わる。


真奈美と付き合っている俺の親友の智史は、ここ数年急速な伸び率で成長を遂げている野田ホールディングスの長男である。

建設業界では有名な矢野建設の娘である真奈美は一見申し分ない相手に見えるが、大企業の次期社長となる智史には会社の利益となる見合い話が次から次へと出てくるそうだ。


智史は実力で真奈美と結婚するべく死に物狂いで頑張ってるが口止めされてるだけに真奈美には話せない。

俺はずっと真奈美を好きでその気持ちを隠しながらそれでもいいと思って相談に乗っていた。


ある夜ひさしぶりに3人で会う約束をして俺は仕事を早めに終わらせビルを出ると目の前の街路樹の横に真奈美が立っていた。


なんでも前日に結婚の話で喧嘩になり、気まずいから一緒に行こうと言う。
正直俺を巻き込むなと言いたいが、見た目とは違って喧嘩っ早い真奈美を10年も繋ぎ止めておける智史を心からすごいと思う。


その時こちらを見てる亜子と目が合ったがすぐに逸らさせる。俺の横を通り過ぎて向かい側に渡ると知らない男が亜子の背中に手を回して消えていった。


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